slainsanインタビュー|“MITAINA”が生まれた理由と、繰り返し聴ける音楽を作る19歳ラッパーの今

アーティスト特集

── 過去の自分を“殺す”ための名前。slainsan、その名に込めた決別

「slainsanって名前です。読み方は“スレインサン”。呼び方はもう、なんでもいいっす。」

現在19歳。
地元・神戸を拠点に活動する彼の名には、見た目以上に重みがある。

「リスナーからは“スレインくん”とか“スレインサン”って呼ばれることが多いっすね。
友達は普通に本名で呼んでますけど(笑)。」

名の由来を尋ねると、少し照れながらもはっきりと語ってくれた。

「“slain”って、英語で“殺す”って意味があるじゃないですか。
でもスラングでは“イケてる”とか“ぶちかましてる”って意味もあるらしくて。
俺の場合は、“昔の自分を殺す”って意味でつけました。」

中学2年から音楽を始めた彼は、当初は別の名前で活動していた。
だが、それは「ダサくて気に入ってなかった」と振り返る。

「そのときの自分を断ち切って、ちゃんと音楽と向き合いたいって思って、
“slainsan”に変えたんすよね。」

最後の“san”は、意味があるようでない。

「ぶっちゃけ“san”は語感っすね(笑)。
“slain”だけでもいいけど、“スレインサン”って呼びやすいし、
ちょっと抜け感があるほうが俺っぽいかなって。」

slainsan

── 神戸という土壌、slainsanという芽「地元は神戸っすね。」

さらっと答えるが、その言葉の裏には、彼の“ルーツ”すべてが詰まっている。
集合場所は“パイ山”。地元の若者がとりあえず集まる、ゆるやかな広場のような存在だ。

「パイ山って、形がオッパイっぽいからその名前になったらしいんすよ(笑)。
別にオシャレでも何でもないけど、俺らにとっては“とりあえず集まる場所”っすね。」

東京で言えばハチ公前。
でもここには、サイファーもカルチャーもない。ただ、街の“気配”がある。
それで十分だと、彼は言う。

「最近FutureMeっていうラッパーとオミと友達2人で行った
ビリヤニハウス オダンってところが美味かったす。
普通に手で持つには熱すぎるナンを当たり前の顔で出してきてガチやばでみたいな笑」

神戸・三宮には、slainsanが出演するライブイベントの拠点もある。
「Otohatoba」「RINKAITEN」「神戸VARIT.」──
彼が足繁く通い、時にライブに出てきた場所たちだ。

「ZVocalっていうイベントがあって、そこに何回も出させてもらってるんす。
また8月にも出ます!」

slainsanにとって、神戸は音楽を続ける自分の背中を、
確実に支えてくれる場所であることは間違いない。

「オススメのスポットっすか? じゃあ……オスカルっていうオカマバーっすね(笑)。
めちゃくちゃ元気もらえるんですよ。いつか曲のリリックに入れたいっす。」

笑いながら語るその姿には、神戸という街で、日々を生きてきたリアルな温度がある。

slainsan

── 中2で始まった“音”。初期衝動と自己否定の先で

「音楽を始めたのは中2ぐらいっすね。最初は全然違う名前でやってました。」

今でこそ“slainsan”という名前が定着しているが、
そのスタートは、自分でも“ダサかった”と否定する別名義だった。

「中2から高2くらいまでずっとその名前でやってたんですけど、
いま思うと、ほんまに気に入ってなかったんすよ。
だから“slain”っていう名前は、その時の自分を“殺す”って意味でもある。」

名前を変えることは、スタイルを変えること以上に、
自分をやり直す“意志表明”だった。

音楽との出会いは、GOBLIN LANDのニート東京だった。
ニート東京から色んなラッパーを知って色んな音楽を聴いていくうちに、
「ラップをやりたい。」と思った。

「最初は完全に趣味でした。
でも、高校入るぐらいから“自分の言葉でしかできんことあるな”って思い始めて。」

「ラップやるって、今でこそ当たり前かもしれないけど、
当時の俺には“コレ自分で作れるってヤバい!”みたいな感覚だったんすよ。」

誰かの真似でも、教科書通りでもない。
探究心から始まった彼の音楽は、どこまでも“自分だけのルート”だった。

── 湧き出る言葉。リリックで切り取る“生活”

「俺、なんかリリックって、“どういう風に聴かれるか”より、
“自分が今これ書きたい”って感じでやってます。」

slainsanの楽曲に通底するのは、“衝動”と“実感”。
計算された言葉よりも、その瞬間の気持ちをまっすぐ書くことを大事にしている。

「“この曲でこう思ってほしい”ってより、
“このライン書きたいな”とか“この言葉今思いついた”とか、
自分がテンション上がるかどうかが一番大事っすね。」

彼の作品は、どこか“余白”がある。
リスナーが自由に解釈できる言葉で構成されていながら、
その背景にある生活感や温度は確かに存在する。

「俺の曲って、何回聴いてもおもろいなって自分でも思うんすよ。
やから普段聴きで”もう一回聴こうかな”って思ってもらえるような、
“繰り返し聴ける音楽”が作れたら嬉しい。」

一発でバチッと刺すよりも、
「なんかもう一回聴きたくなる」ような余白とテンションを大切にしている。
派手じゃない。でも、確かに染み込む。
言葉の奥にある衝動を、彼はちゃんと音にしている。

slainsan “MITAINA” ジャケット

── 地元の言葉で遊ぶ。slainsanの“MITAINA”

「神戸のライブとか出てたら、みんな語尾に“〜みたいな”ってつけるんすよ(笑)。
あれ?これ神戸だけかも?って思って、曲にしちゃいました。」

そんな気づきから生まれた楽曲「MITAINA」。
タイトルはふざけてるけど、そこにあるのは自分たちの空気感そのまんまだ。

「友達と話してる感じとか、遊んでるときのテンションとか、
“これって音にしてもアリやな”って。そういうノリ、残したかったんすよね。」

プロデュースは、岡山のエンジニアのLoVEisSiCK
ジャンルの枠を超えたトラックに対して、slainsanはただ“気持ちで”乗った。

「ジャンル? うーん、ジャンルレスっすね(笑)。
LoVEisSiCKくんに全部任せてたし、自分も“このトーンで書きたい”ってだけで。」

ジャケットは、盟友であるØMIが担当。
リリースを重ねてきた彼らの信頼関係も、「MITAINA」という形で自然に滲み出る。

「オミのジャケはどの曲もジャケ聴きしたくなるようなジャケットばっかやから、
多分みんなもジャケットやばいし聞いてみよってなったと思います!」

“俺らのローカル”をそのまま出したかった。
slainsanにとって「MITAINA」は、神戸という街で育った彼の
“目線”と“笑い”と“愛”が詰まった一本の記録だ。

── “神戸”と“名古屋”の交差点で生まれた、MITAINA(feat.Worldwide Skippa)[Remix]

「最初は、ただのリスナーって感覚だったんすよ。」

Worldwide Skippaとslainsanが出会ったのは、大阪。
LoVEisSiCKがtantaのバックDJとして大阪入りしていたタイミングで、
たまたま現場で顔を合わせたのがきっかけだった。

「その場で少し話して、そしたらスキッパくんの方から
”これってリミックスムーブメントないんですか?”って。
俺としては、まさかそんな展開になると思ってなかったっす。」

slainsanは、スキッパの存在を以前から“聴く側”として知っていた。
まさか、自分の楽曲に乗ってくれるなんて、という驚きと光栄が混じる。
その想いをしっかり受け取ったうえで、「MITAINA(feat.Worldwide Skippa)[Remix]」は動き出した。

制作にあたっては、トラックのイントロから大胆に手が加えられた。
担当したのは、オリジナル同様Love is sick。

「リミックスって、オリジナルと同じビートだと正直飽きるじゃないですか。
だから、イントロだけでも”あ、これ違うやつだ”って思ってもらえるように、
LoVEisSiCKがイントロをいじってくれました。」

Evil Jordanを彷彿とさせるイントロの“テンテンテンテン…”という印象的な入り。
それだけで、全く別の空気が流れ始める。

スキッパのフロウが乗ることで、
slainsanの“ローカルの私語”だったMITAINAが、
より開かれたユニバースに踏み出した。

「スキッパくんのバース、ほんま良くて。
自分の曲をまた別の角度で照らしてくれる存在になったっす。」

── remixとは、再構築だけじゃない。
“違う誰かが乗ることで、自分の曲が自分の外に出ていく”ということ。
MITAINA(feat.Worldwide Skippa)[Remix]は、その喜びと可能性を体現した1曲だ。

slainsan “MITAINA (feat. Worldwide Skippa) [Remix]” ジャケット

── 嘘のBands woo じゃ足りへん。“MITAINA”の裏にある本音と仲間の名前

「“嘘のBands woo じゃ足りへん”ってライン、あれはマジで実話なんすよ。」

「MITAINA」のリリックには、slainsanの日常がそのまま切り取られている。
たとえば、誕生日に貰ったクラブ「MADAM WOO」のチップ。
そこで“お遊び用”として配られるベンズ(札束)が、あのラインの発端だった。

「いや、もちろんありがたかったんすけど、
“俺らが欲しいのは、ほんまのBandsやろ”って。
だから“嘘のBands woo じゃ足りへん”って、そのまま曲に入れた感じっすね。」

ふざけてるようで、目の奥はちゃんとマジ。
“足りてない今”を茶化すことで、逆に本気の欲望が透けて見える。

もう一つのライン、「いつか食う高いらしいキャビア けど冷めない熱 we are fire」。
ここには、slainsanなりの“仲間との熱”が込められている。

「キャビアって、サメの卵って言われてるけど、
“サメない熱”って言葉遊びにして、“We Are Fire”って繋げてて。
これは、“Fire Club”っていうグループの掛け声から来てます。」

この「We Are Fire」は、実際にSoundCloudにも上がっている合言葉だ。
リリックの中で、ノリを“ネームドロップ”すること=フックアップでもある。

「意味わかんなくてもええと思ってて。
“俺らが盛り上がってる”って空気だけでも伝わったら、それでいいっす。」

slainsanの音楽は、自分のためであり、仲間のためでもある。
MITAINAのリリックに詰まってるのは、置かれている現状、ネタ話、仲間との時間と、本気の夢だ。

slainsan

── “神戸といえば、俺”。その未来をラップで掴みにいく

「目標は、“神戸といえば俺”って言われることっすね。」

照れながらそう語ったslainsanは、冗談交じりのラインや仲間との遊びの延長で、
確かに“いまの神戸”を音にしている。
だけど、それはただの地元愛じゃない。
地元の名前を背負って、どこまでいけるか──その実験であり、本気の賭けだ。

「スキッパくんと曲も出したし、“今やらなあかん”ってめっちゃ思ってる。
忘れられたくないし、ちゃんと記憶に残る人になりたい。」

自分だけじゃ意味がない。
仲間をフックアップするために、自分がまず突き抜ける。
それが、slainsanの描く“成功”のかたちだ。

「リスナーに一言?そっすね…。
曲、ミクステとかEPバンバン出していくんで、全部チェックしてください。みたいな(笑)」

彼はそう言って、笑った。
今ここにいる“slainsan”という名前に、意味を持たせていく旅は、まだ始まったばかりだ。

slainsan

slainsan(スレインサン)
神戸出身、2005年生まれ。
“日々のノリ”をそのまま言葉に落とし込むラッパー。
2024年、神戸の言語感覚や仲間との空気感を軽やかにすくい取った「MITAINA」で注目を集める。
同年にはWorldwide Skippaを迎えた「MITAINA (feat. Worldwide Skippa) [Remix]」も発表し、
ローカルの私語だったフレーズに、新たなリズムと輪郭を与えた。
神戸という街をそのまま抱えながら、slainsanは今日もラップで“今”を刻む。

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