今回の 44Tina gerra インタビュー では、名前の由来や地元・府中での経験、 そして最新EP『Ain’t playin’』に込めた思いを掘り下げる。
インディペンデントな立場からシーンに食い込み、独自のスタイルを築き上げてきた彼の歩みは、若手ラッパーのリアルな声として読者に届くはずだ。
名前と街に刻まれたアイデンティティー——44Tina gerra インタビューで語る出発点
2005年生まれ、東京・府中出身のラッパー 44Tina gerra(フォーティーフォーティナゲラ)。
その名前にはいくつもの断片が重なっている。
サッカー時代に背負った背番号「44」、リスペクトするシンガー Tina Turner から取った「Tina」、
そしてギークしているときに笑いの絶えない自身の性格を映した「gerra」
一見不思議に見える組み合わせも、彼のルーツとキャラクターをそのまま体現している。
地元・府中については「競馬とか競艇があるんで、街全体にギャンブルの匂いがある(笑)」と語る一方で、
同じ環境で育った仲間や空気感が自分のラップを支えてきたとも明かす。
現在は東京を拠点に活動しつつも、「地元で育った感覚やノリはずっと消えない」と言葉にする姿は、
ルーツと現在地を行き来するようだ。

きっかけからキャリアへ——“なりゆき”が導いたラップの道
44Tina gerraがラップを始めたのは16〜17歳頃。
「いいとこの影響で、いろんな遊びをしだして、気づいたらラップしてた」と語るように、
特定の“憧れ”というよりは環境のなかで自然とマイクを握るようになったという。
当時から聴く音楽は幅広く、ヒップホップの中でも時期によってジャンルを変えながら楽しんでいたそうだ。
「しっとり系が好きで、Jojiとかめっちゃ聴いてましたね」と振り返り、意外なルーツを明かす一幕もあった。
本格的に作品としてアウトプットを始めたのは、つい最近。
「まともにマイク買って録るようになったのはほんと最近っす」と笑う。
もともとは友達との遊びでフリースタイルをやっていたが、
オーディション番組『ラップスタア』で名前が知られるようになったことをきっかけに、「ちゃんと金稼ぎに行こう」と決意。
そこから“キャリア”としてのラップをスタートさせた。

遊びじゃ終わらない——EP『Ain’t playin’』の幕開け
「遊んでるだけなのに、お金が入ってきちゃう。だからもう遊びじゃ収まらないっすね。」
そう語る44Tina gerraにとって、最新EP『Ain’t playin’』は単なる作品以上の意味を持つ。
タイトルには、“ふざけているように見えて本気でやっている”という今の勢いと決意が込められている。
ジャケットにも彼のこだわりが反映されている。札束を手にしたアートワークは日本円ではなくドル札で描かれており、「日本だけじゃなく海外でも稼ぐ」という意志を示すと同時に、「日本の色は大事にしたい」という想いも込められている。背景には旭日を描き、「どっちにも偏らない」スタンスを視覚化した。
このジャケットを手掛けたのは「Harusamesoup yum」というクリエイター。
アーティスト本人も「大した意味はないけど、日本と海外、両方の色を持っていたい」と語り、
今の自分のスタンスを素直に刻んだ。
『Ain’t playin’』は、これから1曲ごとに語られる44Tina gerraの現在地を映し出す前触れとなる作品だ。

“YENJAMIN”——フリースタイルで描くフレックスな序章
EPの幕開けを飾る1曲目「YENJAMIN」は、44Tina gerraのスタイルをそのまま体現したような楽曲だ。
タイトルは“Yen(円)”と“Benjamin(100ドル札)”を掛け合わせた造語。
意味を強く込めたものではなく、「フィーリングでつけた」という彼らしい軽やかさが滲む。
制作は基本的にフリースタイル。
「歌詞書くのがめんどくさくなって、ほとんどその場のノリでやってるっす」と語るように、リリックは直感から生まれている。
それでも「遊ぶだけでstackin’ that yenjamin このlifeならまじやべえよ」といったフレーズには、
自分の生活や状況をユーモラスかつリアルに切り取った強さがある。
特に印象的なのが、
「Sippin on that lean たまにlazy でも俺に近づくfetty」
というライン。気怠さの中でも金(fetty)は確実に近づいてくるという、フレックスな生き様をストレートに刻んだ一節だ。
曲順に特別な意味はなかったというが、結果的に「YENJAMIN」がEP全体の生意気さや勢いを示す序章になった。
「遊んでるだけで金が近づいてくる」感覚をそのまま乗せたこの曲は、
44Tina gerraの等身大を鮮烈に開示するオープニングとなっている。
鍵を握るノリとパンチライン ——「Keyyyman (feat. Toad Noddy)」
「Keyyyman」は、44Tina gerraと幼なじみのToad Noddyが、ノリの延長から本気へと昇華させた1曲だ。
「普段チャリ漕いでる時に“俺らがキーマンだろ”ってふざけて言ったんすよ。そこから自然に曲タイトルになりましたね」と44Tina gerraは語る。
この曲の魅力は、思わず耳に残るパンチラインの数々だ。
「ここはドアじゃないのに俺ら差し込んでるよkeyを」や「俺の肌は黄色なのに鼻の下真っ白」といったラインは、
ユーモアの裏に生々しさも覗かせる。
「パンチラインばっかで作りたかったんで、遊び半分だけど本気でもあるんです」と44Tina gerraは笑う。
Toad Noddyは「反省はしても後悔はしない、ってラインは自分の気持ちそのまんまなんですよ」と付け加える。
二人の言葉からは、若さ特有の勢いと開き直りが伝わってくる。
フックでは、USラップの影響を受けた英語が光る。「ちっちゃい頃からずっとUSラップばっか聞いてたんで、
発音は自然に染みついた」と44Tina gerra。
インタビュアーが「耳にすっと入ってくる」と返すと、彼は「それが狙いなんすよ」とうなずいた。
小学生からの同級生でもある二人。
「最初は遊び感覚でマイク立ててただけ。でも気付いたら遊びじゃなくなってましたね」とToad Noddy。
その言葉通り、この曲には長年の友情と現在進行形の決意が同居している。
「Keyyyman」は、ノリから生まれたフレーズを軸に、ふたりの関係性と遊び心をそのまま刻み込んだ1曲となった。

欲望と抜け感の化学反応——「I want it all (feat. SatoCobain)」
EP『Ain’t playin’』の3曲目「I want it all」は、広島のラッパー・SatoCobainを迎えた共作曲。
44Tina gerraは「もともとインスタで繋がってて、SatoCobainくんの抜け感のあるラップに惹かれてた」と語る。
インスタを通じて繋がり、DMで「やろうぜ」と声をかけたのがきっかけで、このセッションが実現した。
「俺のフローの余裕さと、SatoCobainくんの気だるい感じがめっちゃマッチしてると思うんすよ。
共同EPとかあってもいいくらい」とTinaは言う。
二人がリリースパーティーのタイミングで数日遊んだエピソードも交え、
「やっぱ合うなって。バイブスが一緒だと思った」と互いの相性を強調した。
リリック面では、「I’ll fuck around and raise the price 積み上げるpaper」といったフレーズが耳に残る。
Tina自身「意味は特にないけど、センスでやってる。適当にやっててもお金稼いじゃう、そういうノリっす」と笑う。
つまりこの曲は、深読みを求めるものではなく、
「ギークしてるときに音量を上げて聴いてほしい」と彼が言うように、感覚で楽しむのが正解だ。
遊び心と抜け感、そして“センスで乗りこなす”軽やかさが融合したこの1曲は、
44Tina gerraとSatoCobainの相性の良さを証明するコラボレーションとなっている。
お金と遊び心を映す——「sensei (feat. Ivy)」
EP『Ain’t playin’』のラストを飾るのが、SpiderWebのIvyを迎えた「sensei」.
制作は完全にフリースタイルのノリで進んだという。
44Tina gerraは「Ivy君から送られてきたファイル聴いた瞬間、“これは俺も遊ばなきゃ失礼だな”って思ったんすよ」と笑う。
その言葉通り、楽曲全体に肩の力の抜けた自由さが漂っている。
注目したいのは次のラインだ。
「財布が太ってくどんどん 横目に税理士叫ぶよhold on」。
稼ぎが増えていく現状をリアルに描きつつ、
“税理士が横で慌ててる”というユーモラスなイメージを添えている。
本人も「最近は頭の中が金のことばっかで(笑)。
でも結局お金ないと何も始まらないっすから」と語り、リリックに刻んだマインドを裏付ける。
さらに、「ADCと府中 俺らswerving in TOKYO」など、
足立区や府中市のローカル感覚を織り交ぜたラインも、地元に根ざした空気を漂わせる。
IvyのソロEPから強い影響を受けたこともあり、「ふざけた」と本人が語るほど、遊びとリアルが絶妙に混ざった1曲になった。
ラストトラックに相応しい“軽やかな締め”でありながら、
44Tina gerraの飾らない日常や金銭欲、そして仲間との遊び心が色濃く反映された作品だ。

止まらない勢い——EPがもたらした手応えとこれから
EP『Ain’t playin’』を経て、44Tina gerraは手応えをしっかりと感じている。
「インスタのフォロワーも気づいたら2000人近くなってて、“お、増えてるな”って思ったっすね」と笑う一方で、
「でも正直、反響はあんま気にしてないっす。遊びの延長でやってるし、楽しみながら少しお金になったらいいかなってくらい」
と肩の力を抜いたまま語る。
それでもEPを出したことで「いい流れが来てる」と実感しており、
「止めたくないから、曲はどんどん出していこうと思ってます」と意欲を見せる。
数をこなすだけではなく、「納得できない曲は出したくない」と選別にもこだわるスタンスだ。
「動きは止めずに、楽しみにしててほしいっす。」
そう語る言葉には、EPをきっかけに加速していく彼の姿勢が端的に表れている。
最後に——リスナーへ向けたメッセージ
インタビューの締めくくりで、44Tina gerraは飾らない言葉でリスナーに想いを伝えた。
「俺のリスナー、たぶんGeekin’して聴いてると思うんすよ。
だから、これからもそういうときに気持ちよく聴ける音楽を作りたいっすね」
と笑いながら語る。
さらに「全部適当に、自然にできる音楽が一番いいと思ってる」と続け、自身のスタイルをあらためて言葉にした。
肩ひじを張らず、自然体のまま生まれる音楽こそが44Tina gerraの核だ。
そのラフさとリアルさが、これからもリスナーを惹きつけてやまないだろう。

44Tina gerra(フォーティーフォーティナゲラ)
東京府中市出身、2005年生まれ。
飾らない日常をそのままビートに刻むラッパー。
2024年に本格的な活動をスタートし、2025年にはEP『Ain’t playin’』で存在感を示す。
自身の等身大を映し出すリリックと、仲間とのセッションから生まれる熱量を強みに、ユーモラスかつ鋭い言葉を投げかけるスタイルで注目を集めている。
これからの展開にも期待が集まる、次世代アンダーグラウンドの要注目株だ。


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