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Aero S インタビュー Mixtape『DES!RE&DEBR!S』で描く“青”の現在地

SYNTH

名前の読み方と由来——“Aero”の流れに、自分の“S”を刻む

読みは「エアロ エス」。
「えーと、エアロ エスって読みます。呼ばれ方は“エアロ”とか“エアロくん”が多いですね」と本人。
名前の核は “Aero”——空気や滑空のイメージに惹かれ、
「どこへでもスッと入り込める軽さ」を託したという。
名付けの契機は、高校三年のとき。
静岡にいた友人のAmaNoJa9が「大学で東京に出る」と連絡をくれたタイミングで、
「クルーやりたくない?」という会話が生まれる。
そこで「もう新規でいこう」とアカウントも含めて一新。
グループラインで「自分といえば青にしたい。青っぽい単語ない?」と投げかけると、誰かが “Aero” を提案した。
「エアロめっちゃいいな。軽い“青”って感じ。空気とか空とか、航空っぽいニュアンスもあるし」
とうなずいた。

ただ、“Aero” だけでは物足りない。
「“呼び言葉”を自分でも作りたかった」と話す。
その延長で、自分専用の合いの手として「Aero is Sweet」を思いつく。キーワードは “Sweet”。
「自分、けっこう歌う系だし、声も少し高めで歌う。ガツガツいくタイプじゃないし、メロウな感じの“スイート”がちょうどいいなと思って。しかも本名の頭文字がSだから」
最初は「T-Pablow みたいに S-エアロ にしようとした」ものの、
「字面で見たときに疾走感が出すぎて、バイクの名前みたいだなって」。
そこで「違うかと思って後ろにつけた」、結果として “Aero + S” の並びが定着し、
正式表記は「Aero S」となった。

イメージカラーは、一貫して“青”。「僕といえば青にしたかった」。
言葉と色の収まりが一致したことで、名前は視覚的にも音としても自分にフィットした。
世代は「2004年の代(2005年の早生まれ)」。本人いわく「だから“04の代”です」。
この境界の感覚が、言葉の置き方やビートへの乗り方にも滲む。
名はひとりで立たない——AmaNoJa9と出会い、呼び合う言葉の熱量に背中を押されながら、
「Aero S」は“軽さ”と“甘さ”のちょうど中間で確かな輪郭を得たのだ。

Aero S

地元・住まいとクルー——“秩父”で育ち、東京寄りの埼玉から鳴らす LeadGravity

現在地は「ギリ埼玉なんですけど、ほぼ東京。埼玉と東京の境目に住んでて」と語るように、
都心の熱がすぐ届くエリアでの一人暮らし。一方で地元は一貫して埼玉・秩父。
「めちゃくちゃ田舎の秩父市っていうところ。
西武鉄道が観光地にしようとしてるのに、別になんもないよ」と笑うが、
口ぶりには確かな愛着が滲む。ローカルの“顔”を挙げるなら「フットスターは林家たい平さんかな」。さらに「実は藤原竜也も秩父出身」「アキラ100%も地元いっしょ」と続け、誇りと距離感の混ざった“秩父らしさ”を言葉にする。

クルーはLeadGravity
「クルーはリードグラビティっていうクルーやってて、今メンバーが自分とAmaNoJa9とRID THE STAIN。もともと4人だったけど、今は3人」と編成を説明する。
動き方も現在進行形で更新中だ。
「一旦、2025年はそれぞれソロ頑張るか。たまに3人で集まって曲作れたらいいね」。
秩父で育った目線と、東京寄りの埼玉という“境目”の生活圏。
個とクルーの重力を往復しながら、Aero S はいまの自分の速度で前へ進む。

クルー:LeadGravity

ラップを始めたきっかけ——深夜の『フリースタイルダンジョン』と、校庭の“ブロックパーティー”

「ラップ始めたきっかけは、完全にラップバトルキッズでした」。
小6の2016年。テレビもネットも、フリースタイルダンジョン初代モンスターの話題で持ちきり。
「高ラもめっちゃ盛り上がってる感じで」。放送は水曜の深夜。
「いかがわしい番組だと思って最初はこっそり録画して、親がいないタイミングに見ようと思って」と笑う。
画面の中では「男臭い男たちがラップでバトルし合ってて…まんまと魅了された」。
同時期、高校生ラップ選手権(高ラ)の動画も追いかけ、リリックと言葉の“戦い方”を学んでいった。

火がつくと広がりは早い。
小学生のときは休み時間に校庭でビートなし、膝や手を叩くパーカッションだけでバトル。
中学生になると、休み時間にiPadでビートを流してサイファーへ。
「疑似サイファーだったっすね。ブロックパーティーやってたっす、校庭で」。
ブランコに審査員が4人。目の前に円を描いて、その中でバトル。
ビートがなくても「審査員役の4人が膝とか手を叩いてビート刻んで」輪を回した。

当然、先生に見つかる。「バレたっぽいですけど、最終的に“お前らもういいよ”って。
もう規制できてないのはこっちの技術の問題だわ、みたいな感じで諦められて」。それでもやめない。初めてラップしたのは小6。初めて曲を作ったのは中3の終わり〜高1の始まり。
深夜番組の熱と、校庭の円。画面の向こうで始まった衝動は、日常の真ん中に“鳴り”として定着していった。

「DES!RE&DEBR!S」のジャケット

テーマ——「DES!RE」と「DEBR!S」、欲と残骸の間でひかるもの

前作『Aero is Sweet 2』のあとに置かれたタイトルは、軽い連作意識というより“現在位置のスナップ”だという。
「作品としてのテーマがあるかって言われれば、ないんじゃないんですけど」と前置きしつつ、言葉の手触りは明確だ。「今回の“デザイア(DES!RE)”は、なんか“光”っていうか」。
対になる“デブリ(DEBR!S)”は「宇宙ゴミ」「何かが壊れたときのゴミ」のイメージ。壊れた後に散らばる“残骸”と、なお消えない光。
その両端にまたがるように、「ネガティブから生まれるポジティブ みたいな歌詞が結構多くて」と本人は言う。
“スイート”だった前作から、“欲望”と“残骸”へ。
甘さを撫でていた手つきで、今度は欠けや破片を撫でる。
ミックステープという器に、光とデブリの粒度をそのまま詰めた——そんな質感の作品だ。

Mixtape制作のきっかけ——「止めたくない」熱のまま、溜まった曲が合図になった

動機はシンプルで強い。
「前回(『Aero is Sweet 2』)は今までで一番反響があった」「もう前回出した瞬間から、“これリリースめちゃくちゃ立て続けにやりたいな”って」。その熱のまま「リリース止めたくない」という気持ちが制作を押し出した。
「制作をわりと進めていって、シングルを2個出して。その間に結構曲数が溜まったから、“あ、これミックステープで出せるな”って」。
結果として、「作ろうと思って作ったってよりかは、やんなきゃみたいな感じで作っていったら溜まったから出した」「曲作りして溜まってたんで出しました」という自然な流れに落ち着いた。
“勢い”と“蓄積”が同時に点灯したとき、タイトルが輪郭を持ち、ミックステープは必然になる。そのスピード感自体が『DES!RE&DEBR!S』のライブ感であり、次の一手への助走でもある。

Aero S

Self Made——“FPSの主導権”を握る、LeadGravityの自己宣言

アルバムの扉を開ける1曲目は、まず視点を奪う。「FPS, 他はCPUだこのgame」。
“プレイヤーは俺。お前らはCPU”という宣言で、曲の重心を一拍で決める。主体は常に自分。
スピードも、狙いも、勝敗の定義も、自分の手にある——その感覚がトラック全体を走らせる。

続くラインは、個から集合へとピントを寄せる。
「Take a pill / Crewも take control / LとGで kill / 勘違い」。
ここでの“LとG”はLeadGravity。
勢いのままに突っ込むのではなく、掌握(control)して仕留める(kill)。
個=Self Madeの強度と、クルー=LeadGravityの運動が同一線上にあることを示す、最短距離の自己紹介だ。

中盤のブロックは、言葉遊びにナラティブを重ねる。
「Get RID of bitch, fix the glitch / 俺が pave the 道, 向かう rich / 俺の rhyme 引いとけよ under line / 最後の砦 隣に number 9」。
“Get RID of” はRID THE STAINへの二重写し、“under line” は自分のラインにアンダーラインを引け=強調しろ、というメタな指示。
“最後の砦”の「隣に number 9」は、背中合わせのAmaNoJa9。個の意思決定(pave the 道)と、クルーの結束(RID/No.9)がひと続きになることで、曲名のSelf Madeは“独りよがり”ではなく“自分で選び取り、仲間と押し切る”という現在形の姿勢へと拡張される。
ゲームは始まったばかり。プレイヤーはもう中央へ——照準は、ブレない。

Monster (feat. Slayah Baby) [Remix]——衝動を二重化する

Slayah Babyとの出会いについてAeroは語る。
きっかけはInstagramのメンション。「ストーリーで名前出したら、向こうが反応くれて。そこからDMで音楽の話が始まった」と本人。
最初のやりとりはプレイリストに発展する。「年近いアーティストでまとめて送るわ」。
曲を投げ合ううちに、ふと歳の確認になる——「20?」「あ、同い年やん」。
続いて誕生月の話題が転がる——「俺、2月」「え、俺も2月」。同い年の二月生まれという偶然が、その場の温度を一段上げた。

距離の詰まり方は速い。
「“Monster”めっちゃ良かった、って言ってくれて。じゃあ一緒にやろうか、って流れ」。
そうして生まれたのが「Monster (feat. Slayah Baby) [Remix]」だ。Aero は言う。
「オリジナルが俺の視界の速さなら、リミックスは横からライト差す感じ。友達が入ると景色が広がる」。合言葉は変わらない——

Rageのスピードで自己像を描き切る一曲。
「Everyday sippin’ monster (Oh no!)」と最初の一歩でテンションを決め、「Wake up with your scream」で一気に目線を引き上げる。本人はこう話す。
「レイジは、気合いで押すんじゃなくて“景色を一気に切り替える感じ”。一枚めくったらもう次の画」

タイトルの軸はエナジードリンクのMONSTER。
「“飲んで上げる”テンションの比喩というか。自分の高揚の仕方を、そのまま単語にしたかった」とAero。そこに遊び心で嵐の『Monster』を重ねる。「ドラマ『怪物くん』の主題歌っすよね。
大野智のあれ。“青のリーダー”」。
自身のイメージカラーに絡めて「青いリーダーに日本に2人、って言いたくて。俺の“青”と、大野くんの“青”。あくまでジョークの並べ」と笑う。
エナドリの“加速”が軸、J-POPの“記憶”はウィンク。二つの参照が、衝動の明度を上げていく。

Aero S

Rich Talk (feat. Worldwide Skippa)——“Flexじゃない”心の充足を語るリッチトーク

前作『Aero is Sweet 2』の余熱をそのまま受け継ぎつつ、方向は一点だけズラす。
「“Rich Talk”って言っても金の話じゃない。心が満たされる方の“リッチ”」。
プロデューサーは4m4ne。温度のあるビートに、童心と現在地を直結させる言葉が並ぶ。
「少年の気持ち忘れずする rich talk / お金の話ちゃう 心の rich talk」。
自分にとっての財産は何か——問いの答えはすでにラインに刻まれている。「これを財産と呼ぶんでしょ きっと」。

参照している“記憶”はポップの側にもある。
「セカオワの“物語っぽさ”が好きで」。視界の中心にはウルトラマンが立つ。「I’ma boy 大好きなウルトラマン / Girlが俺の目を見て言う “つぶらやな”」。
円谷プロダクション(つぶらや)への言葉遊びで、子ども時代のヒーローと今の自分を一行でブリッジする。さらに日常の癖まで物語に回収する。
「階段登る時つい上げてる かかと / MJ に憧れて 冷房は 27℃(松潤)」。
MJへの憧れと、松潤の“27”を重ねたダブルミーニング。肩の力を抜いたユーモアが、心の“リッチ”を押し出す。

価値観の芯は、家族と好奇心だ。
「俺が1番尊敬する男も すきっ歯(Ma daddy!)」。そこにおさるのジョージが差し込まれる。
「好奇心旺盛 これが俺の長所(オサジョ) / だって俺のバイブル もちろん おさジョ」。
韻と駄洒落を、照れずにまっすぐ投げる——その“少年”のまなざしこそが、この曲の主語になっている。

客演はWorldwide Skippa
最終稿に至るまでにバースは差し替えがあったというが、いま刻まれているのは彼の生活圏の速度だ。「俺ウルトラマンだったらメビウス」。
Aero の“ウルトラマン”に、別の型番で呼応する。
さらに「前の方から取るよ おにぎり / 気にしている エコ / Skippa 聴けって言っとけ origi に 多分聴かないけど」。
ここでのorigiは、US HIPHOPを紹介するTwitter の “ty origi”のこと、とAero は補足する。
完成前の別バージョンはAmaNoJa9が保管しており、「たまにDJで流してる」とニヤリ。曲ができる“前後”まで含めて物語化するのも、このトラックのリッチさだ。

金額ではなく、記憶・関係・好奇心。“Rich Talk”は、フレックスを脱ぎ捨てたあとに残る“満ち足りた会話”のことだと、Aero S は笑ってみせる。

Aero S

Plz Baby Call My Phone——“Skypeの着信音”と、6→7で続く“今を大事に”のラブソング

6曲目「Dream Trip (feat. bunTes)」の余韻をそのまま受けて、
7曲目「Plz Baby Call My Phone」は“電話の向こう側”にピントを合わせる。
「着信音、あの音めっちゃ良いよね」「あの音、絶対サンプリングでも悪くない」——会話の出発点はSkypeの着信音だ。参照点として挙げるのはVaVa “Rolling Stone”。
「あの曲、Skypeの音をサンプリングしてると思うんですけど」。
そこからSpotifyで探して → いろいろ調べて → ビートを見つけて、「ソールドじゃなかったんで、絶対これ使いたいと思って買って」。
制作の導火線に火がつくのは、“彼女と電話しながら”だった——「そのまま制作につながって、テーマもそのまま」。

歌詞のトーンは、甘さ一辺倒ではない。
「今日はなんか澱んでる Sky(Pe!)」——Skypeに引っかけた言葉遊びで、空の濁りと気持ちの翳りを重ねる。そこで吐き出される独白は、まっすぐで、少し苦い。

手に乗る幸せなんて多くは無い
だから今を大事にしたい
そう頭では思って考えてるけどそう簡単では無い
まあ結局無い正解
でもそんな世界をただ君と行きたいんだよ

「“恋愛曲の続き”っていう感じ」と本人は言う。
6曲目「Dream Trip」が“心の遠足”だとすれば、7曲目は“日常の通話”。
“サ終(サービス終了)”でまとわりつくSkypeという固有名詞は、ただのレトロな小道具ではない。
終わっていくものの音色が、“今、ここにある”を際立たせる装置として響く。
ノスタルジックな空気と、少しのネガティブ。
単純に見えて複雑な関係の温度を、そのまま電話のベルで切り取る——Plz Baby Call My Phoneは、そんなラブソングだ。

Aero S

反響と次の一手——“青”の余韻を保ったまま、コレクティブへ加速する

『DES!RE&DEBR!S』の手触りは、前作からの熱をそのまま引き継いだまま更新された。
「止めたくない、の延長で出したけど、欲(DES!RE)と残骸(DEBR!S)の間に光が残った感じ」と本人。作品後の動きは“個”に留まらない。
神戸のラッパー slainsan との曲づくりが進行中で、「関西の温度を混ぜたい。
青のトーンは変えずに、街の空気だけ変えるイメージ」と話す。
距離はあっても速度は落とさない——LeadGravity を核に、友達=仲間の円を外側へ広げていく。

さらに「Plz Baby Call My Phone」のRemixも進行中。
「電話の曲だから、別の声が入ると景色が変わる。着信のニュアンスをもう一段、広げたい」とAero。オリジナルの“通話の温度”に、新しい視点を重ねる発想だ。

見据えるのは“コレクティブ”としての鳴り方。
「トラヴィスの JACKBOYS みたいに、顔ぶれで温度を上げる一枚の落とし方は好き」。
フレックスではなく“関係”で押し上げるのがAero Sの流儀。
「同じ画角で写ると曲が速くなる」。その確信を合図に、青はもう一段、濃くなる。

リスナーへ——“止めない”を合言葉に、青を濃くしていく

「聴いてくれてありがとう。”止めたくない”って気持ちのまま、次もすぐ出します」。
『DES!RE&DEBR!S』で灯った光は、そのまま次の曲の導火線になる。
「勢いで出すんじゃなくて、ちゃんと“今の自分”で更新する」。
Rich Talkで語った“心のリッチ”は合図だ。フレックスじゃない充足を、曲ごとに増やしていく。
我々はAero Sの今後の動きに注視しなければならない。

Aero S(エアロ エス)
埼玉県秩父市出身、2005年生まれ(04の代)。
“青”をイメージカラーに、メロと切れ味、Rageの切り替えで輪郭を立てるラッパー。
Mixtape『DES!RE&DEBR!S』で存在感を高め、前作『Aero is Sweet 2』の熱を更新。
「Self Made」「Monster」「Monster(feat. Slayah Baby)[Remix]」
「Rich Talk(prod. 4m4ne)」「Plz Baby Call My Phone」などで自己宣言と“心が満たされる”リッチ、等身大の恋愛を描く。
クルーはLeadGravity(AmaNoJa9、RID THE STAIN)。
Aero Sはまだ進化の途中にある。

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