RUPRECXNTA インタビュー|名前と年齢——“ループレ×シンタ”の二面性を名に、2004年生まれ・21歳
読みは「RUPRECXNTA(ルプレシンタ)」。本人は笑ってこう説明する。
「“RUPRECXNTA”って書いてルプレシンタ、です。
苗字が山田で、読み方変えたら”サンタ”じゃないすか。サンタ関連で名前決めたくて。」。
そこで引いたモチーフが“二人のサンタ”。
「悪いサンタのクネヒト・ループレヒト(Ruprecht)と、良いサンタのシンタクラース(Sinter)を合わせたら、自分の中の善と悪がちょうど収まった感じがした」。
見た目のインパクトは強いが、「読み方わからんって言われること多いんで、このインタビューで覚えてほしいです」と続ける。
仲間内では短く“ルプレ”。「呼びやすい呼び名が先に街を歩く感じ、けっこう好きなんですよ」。
年齢は2004年生まれ、21歳。「04の代の空気はちゃんと背負いつつ、今は“ルプレシンタ”で更新していく」。善と悪、祝祭と悪戯——二面性を引き受ける名前は、そのまま彼の音楽の宣言でもある。

地元——“生まれも育ちも金沢”、ミーハーの街を仲間と塗り替える
生まれも育ちも、石川県金沢市。
「地元は金沢っす」と前置きして、「自然と都会の要素が上手く混ざってる」と街の顔を評する。
日常を生きるには充分——ただし音楽に関しては話が別だ。
「クラブもないし、スタジオも多くない」。そして一言、「ミーハーが多い街って感じ」。
それでも、諦めない。「この街の音楽への見方を変えたい」。
アルバム制作の最中に芽生えた実感だ。
「今までは“どうでもいい”だった評価も、転調させたい」。
ネガティブを更新するために、まず自分から。
順序ははっきりしている。「まずは金沢を知ってもらう」。
そのうえで、
「最終的にYamiboi To$とかYÖSYとか、俺の周りの人らが上がってきたら嬉しい」。
仲間の輪を押し上げて、街の温度を上げる——そのイメージが今の背中を押す。

ラップを始めたきっかけと影響——19歳の春、“初レコ”と武道館のサイファーが点けた火
「もともとラップ聴くのが好きで、いろんなライブ……結構見に行って、やる側になってみたいなって思って、ラップ始めた」と本人は語る。
本格的に動き出したのは2023年5月、19歳のとき。
「スタジオでレコーディングしたのは……2023年の5月ぐらい」と振り返る。
同年6月、決定打になる景色を見たという。
「stutsの武道館ライブを見に行って……最後に演者全員出てきてサイファーしてて…。
で、わーすげーな。こんなでっけーとこで、みんな楽しそうにサイファーやってるのかっこいいなって感じて」
その場の熱量に背中を押され、「それを見て本格的にやってみようってなった」。
「影響を受けたアーティストはいっぱいいるけど、強いて言うならこの人たちですかね」 そう言って教えてくれたのは、JJJ、midwxst、相対性理論だった。 陰影のある言葉運び、鋭い高揚のスイッチ、無重力なメロディ感——三者の要素が折り重なって、RUPRECXNTA の現在のトーンを形づくっている。

Yamiboi To$との関係——“アニキ”と呼べる距離、Yamiの合図
「トスさんは……兄貴って感じ」——最初の言葉がすべてを物語る。
ラップのことも、生き方のことも、的確に背中を押してくれる存在だと彼は言う。
頼りがい、という語がいちばんしっくり来る距離感だ。
魅力は言葉にも滲む。
「言うことが面白い」「人として面白い」——ステージの外側でのフレーズ回しや視点の置き方こそ、Yamiboi To$の”らしさ”。
「To$さんだけじゃなくて、俺の仲間は全員面白いし優しいですね。そういう魅力をみんなに知ってもらいたいす。」
その評価は、同時に自分の目標にもなっている。
先を急いで結論を並べるより、日常の会話やジョーク、何気ない助言をそのまま曲へ。
仲間たちと交わした言葉が、次の一手の合図になる。
⇒過去のYamiboi To$のインタビュー記事はコチラから

2ndアルバム『TENCHO』——“転調”でマイナスをプラスへ、赤いピルと二つの顔
RUPRECXNTAが「これはセカンドアルバムって感じです」と語る『TENCHO』は、題名どおり“転調”の意志を正面に置く。
「物事をマイナスからプラスに変える——自分自身、金回り、日本のシーンも含めて、良い方向に変えていきたい」と狙いを明かす。
ジャケットは玄野(クロノ)による一作。
口元の赤いピルは、「現実世界の厳しい真実を知る」選択を示すモチーフ。
「ずっと音楽やってると、やっぱ夢見てるだけじゃダメで、現実と向き合わなくちゃならない時が絶対あるんすよね。そういう時って”赤いピルを飲んでる”感覚で」と本人は言う。
さらに上下に分かれた二つの顔は「みんなに向ける気丈に振る舞う時の顔と、本当の自分の顔」
サウンド面は「聴いてて飽きないように」スタイル幅を大胆に採る。
Glo/Crankから、Jerk/Jersey、そしてAsian Rockまでを横断し、曲数が多いアルバムでも推進力が落ちない設計だ。
曲順は「前半:攻撃的、後半:内省的」という配色で、温度差を物語化する。
本人はビートを色で見る”タイプだという。
たとえば1曲目「明け方freestyle」は「黒や紫」のトーン、5曲目「本わさびとチューブわさび (feat. Worldwide Skippa)」は「緑や黄色、オレンジ」の配色で、その“色”が次曲へと自然に繋がる並びをつくる。
色彩感覚で配列された起伏が、アルバムを最初から最後まで走らせる。

I feel like I’m Zlatan in 2012——『SPEC』の“サトリ”から始まり、ズラタンの全盛期で自己像を切り抜く
イントロは、ドラマ『SPEC』の引用から。
「イントロがやばいと思うんですけど……『SPEC』っていうドラマがあって、そこからのサンプリングで」と本人。
耳を引く“サトリン、サトイモ”のフレーズで扉を開け、「これ聞いた瞬間、”やべぇ!”ってなって。ビートメーカーに”これ使わせて”って送って」という経緯を明かす。
タイトルは、サッカーの怪物に自分を重ねる宣言だ。
「ズラタン・イブラヒモビッチが好きで、全盛期が2012〜13年くらい。
今の自分はその頃のズラタンみたいだって感覚を題名にした」と語る。
自己像の切り取り方を、年号まで含めて具体化した一本。
リリックでは、時代の“見た目偏重”を正面から刺す。
「SWAG! SWAG! バカみたいに連呼 お前無様/リーンと服が大好きな ただのインスタグラマー」。SNSでの気分や“近さ”を過剰に価値化する風潮に対して、「人間としてのかっこよさが伴ってないのに錯覚してる人たちに向けたライン」だと説明する。
一方で、好みははっきりと言う。
「俺もゴッホよりラッセン派」。お笑い芸人・永野のネタ「ラッセンが好き」に触発され、「みんなが良いと言うものに対して“自分はこっちが好き”と大声で言えることがかっこいい」という態度表明でもある。続く「言いたいこと言う、止めらんねーわ」は、その延長線上に置いた。
名前を挙げる相手にも意味がある。
Worldwide Skippaとは会ったことがあるが、jellyy(ジェリー)とは未会面。
「それでも“言いたいことを言う姿勢”がかっこいい」とアルバムを聴いて刺さり、ネームドロップで敬意を示したという。
⇒過去のjellyyのインタビュー記事はコチラから
自己開示はユーモアで跳ねる。
「Booking待つ@は以下 〒920-0831だ」は、自宅の郵便番号を書いた小ネタ。
「言ったら面白いかなって。いつかdonda houseみたいになれば良いっすね(笑)」と本人は笑って語る。

本わさびとチューブわさび (feat. Worldwide Skippa)——“中部→チューブ”の遊び心で、フェイクを切り分ける
きっかけはWorldwide Skippaとの遭遇。最初にハマったのは「JAPANESE CRANKA(feat. SiX FXXT UNDXR)」で、「アルバムを作ってる時にいい機会だと思って誘って、心よく入ってくれた」という。
ビートは nainsuta。出発点はYouTubeのタイプビートで、「これでやりたい」と送ったところ、Skippaが「それ、俺の友達のビートです(笑)」と判明——偶然が一気に加速へと変わった。
タイトルの核は“中部地方→チューブ”の掛け言葉。
石川(RUPRECXNTA)と名古屋(Skippa)という地理の共通項から、「俺らは“チューブ(中部)の出身”やけど、“チューブ(偽物)のわさび”じゃない。俺らは“本わさび”」という宣言へ。
地名のリアルを、言葉遊びで本物/偽物の線引きに変える。
構成はノンフック、直進の一撃。
「ラッパーよくバカにするよなアイドル でもお前よりリリースペース早いぞ」「調子こいて動きが無いな大丈夫? まるでアイドル前髪 でも剃ってやるよ笑いもん」。
固められて絶対に動かない“アイドル前髪”を比喩に、「動いてないならお前の存在ごと“剃る”」と切り込む。
背景には「K-POPアイドルが好き」という両者の共通項へのリスペクトがあり、「頑張ってる人を下げる権利はない」という倫理が通底する。
最後は足回りの話で軽やかに着地する。
「乗ってるのはトヨタの SIENTA。名前は“RUPRESIENTA(ルプレシエンタ)”」。
ネーミングはYamiboi To$の一言から生まれた。
「この車、ルプレシエンタやん」——そう言われた瞬間、「マジやん」と即採用。
街をルプレシエンタで“Skrr Skrr”動き回る、地続きのスピード感もこの曲の一部だ。

RUPRECXNTAとトヨタシエンタ
TENCHO——「忍ぶれど」で露わになる本音、涙の比喩でタイトル回収
アルバムを冠した8曲目は、いちど音楽から離れかけた地点からの書き直しだ。
本人は「歌詞を書けなくなった時に何とか書いた曲」「この時は音楽を辞めようと思ってた」と打ち明ける。
そこから「やっぱ音楽好きやな」へ折り返す運動が、この曲の心臓になった。
フックの核は「忍ぶれど色に出でにけれ」。
百人一首では恋情の比喩だが、ここでの意味は反転する。
「音楽が好きって気持ちを押し殺して離れようとしても、結局にじみ出てしまう」
——抑え込んだ本音が、色として露わになる。
『TENCHO(転調)』という題の回収でもある。
中盤の「これじゃダメ これじゃダメだよ これじゃダメ」は、自分への叱咤だ。
現状に踏みとどまらないための合図であり、「そこから転調して良い生活に変えていこう」という意志の表明でもある。
情景の切り取りは、日常から立ち上がる。
「いつもの道を歩いてたら、川の上に小さい筏がポツンと浮かんでて」。
壊れやすい木の筏に自分を重ね、「俺のせいで水かさが溢れそうだ」と続ける“水”は、噴きこぼれそうな涙の比喩だという。
実際に泣いたわけではないが、「そのくらい感情的になった」景色がラインになった。
そして価値観の芯。「人間なら少し陰あるくらいが魅力的」。
派手さよりも、内省に寄り添う言葉に惹かれる自分がいる
——パーティーの速度を否定するのではなく、「人間味に寄るリリックを書ける人が好き」という選好が、この曲のトーンを決めている。
ビートはD-ryooga(ディーリョーガ)。
金沢のビートメーカーで、「最近で言うと『レベチ』のビートとかもやってるすね」と本人が補足する。
鋭さの中に余白を残す鳴りが、言葉の“転調点”を際立たせる。
サンプリングはPerfume「MY COLOR」。ポップの記憶と個人的な揺れが一枚で重なり、アルバムの中心点としての“転調”を確かに示す。
8/31.5(skit)——花火へつなぐ、河川敷の夜と“デデデデ”の気配
スキットもD-Ryoogaに依頼。 次曲へ滑り込む設計は最初から明確だった--
「この後の花火につながる感じのスキットがいいな」というイメージを共有し、花火大会の河川敷、芝生、夜空に上がる花火の雰囲気を音にしてほしいと伝えたという。
すると「一発であれが返ってきた」「やばかったっすね、初めて聞いたとき」——情景がそのまま音像になって戻ってきた瞬間だった。
もう一つの合図は、二人が好きだというアニメ『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(通称”デデデデ”) 「りょうがくんと俺が、どっちも”デデデデ”っていうアニメが好きで」「自分の曲にも”デデデデ”っていう曲がある」。
その共通項から「“デデデデ”っぽい雰囲気のスキットにしたいね」という話が自然に立ち上がり、花火と夜気のテクスチャに“デデデデ”的な余韻が重ねられた。
タイトルどおり8/31.5の“半日”が割り込むように、時間の継ぎ目を音で描く小品だ。

花火——常盤橋の夕焼けで書き始め、SCARSの余韻で“噂”を燃やす
前曲のスキットから、そのまま“花火”へ。
「ここから花火につながるってわけですね」「10曲目——ぜひとも聞かせていただきたいです」と流れを確認してから、彼は散歩の記憶を開く。
常盤橋(ときわばし)を通りかかった夕方、「夏のオレンジや赤が一瞬で浮かんで、その雰囲気に合う曲を作りたいって思って書き始めた」。
ビートメーカーは ptf boi(ポトフボーイ)。
「Twitterにビート動画を上げてて。これだってなってすぐdmした」——出会いのスピード感も曲に宿る。
録りは「フリースタイルみたいな感じ」で、見えた情景をそのまま言葉に貼っていく。
「映画みたいにイメージが思い浮かぶ」という感触を優先し、河川敷の空気を一気に閉じ込めた。
リリックの芯は“噂話”へのカウンター。
「人の噂が好きなやつばっか 他にやることないらしい クズがのさばるシーン俺が荒したった」のラインは、SCARS『STARSCAR』(Sticky のバース)のフレーズをサンプリングし直して、自分の現在地に引き寄せたものだという。
外野のノイズを燃料に、視界を自分の側へ引き戻す手つき。
そこからの連想は軽やかだ。
「地元の風は生ぬるく ~ Bitch I’m Young OG 本名はRioじゃないけどね ~ 守れないやつ蹴とばすブラジル」。
Rio Da Yung Ogへの目配せから“リオ→Rio de Janeiro→ブラジル”へと駆け上がる言葉の階段は、「ここもフリースタイル録り」ならではの即興性。
地元=金沢の温度の話から、自分の“若いOG”像までをひと息で束ねる。
Hookの「遺書書いてる yo 松本人志みたく俺も金積み上げ山に」は、ダウンタウン・松本人志の著書『遺書』へのウィンク。
「芸人でいちばん稼いでるんじゃないか」というイメージに重ねて、”一発で散らずに、ずっと上がり続ける花火”でありたいと結ぶ。
打ち上げて終わるのではなく、上がり続ける意思表明--だからこの曲名は”花火”だ。
今後の動きとメッセージ——冬の新作、そして『Okay』から「みんな一緒に転調しよう」
まずは止めない。「どんどん動きを止めずに、コンスタントに曲を作って、リリースしていきたい」。
そのうえで「冬~春ぐらいにまた、まとまった作品を出せればな」と次を見据える。
並行して”服”でも現在地を示す。「今後アパレルやってみたい」。
背景には地元の工芸がある。「親が加賀友禅っていう着物を作ってて、その影響か分かんないすけど、服は昔からずっと好きですね」。
——音と言葉に通じる配色感覚は、装いににじむ。
リスナーへは、まっすぐに。
「生活の中で俺の曲を聴いて色々感じてくれたら、それだけで嬉しくて」「人生がちょっとでも豊かになったりしてくれるだけで嬉しいす」。
そして合図——「みんな一緒にTENCHOしましょう」「幸せになりましょう」。
ここに『TENCHO』のタイトルを重ねて、彼は言い直す。みんな一緒に“転調”しよう。
シーンへは、4曲目「Okay」での立場表明を踏まえて。
「まだまだ、かっこいいアーティストが“かっこいい”って理由だけで表に出ることが許されない世界」「そういう業界を変えたいすね」 そのために「まずは俺が先陣切って、色んなリスナーに意志を届けていきたいですね」。 目標は線引きを超えることだ。
「アングラをメインストリームにしたいわけじゃないんすよね。どっちでも関係なく、かっこいいやつがもっと有名になって金稼げるようになってほしい。自分も含めてですけど(笑)」。
——冬のまとまり、地元の色、そして“転調”の合図。次のページは、もうめくられる準備ができている。

RUPRECXNTA(ルプレシンタ)
石川県金沢市出身、2004年生まれ。“悪いサンタ/良いサンタ”の二面性を名に宿すラッパー。
19歳でラップを始め、街の現実とユーモアを行き来しながら言葉を研ぐ。
2ndアルバム『TENCHO』で“転調=マイナスをプラスに”を掲げ、強烈なジャケットと多彩なビートで現在地を更新。
「I feel like I’m Zlatan in 2012」「本わさびとチューブわさび (feat. Worldwide Skippa)」「TENCHO」「花火」などで輪郭を広げている。
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