jellyyインタビュー|シングル『Look For Love』で描く愛とリアルを刻んだ3曲

アーティスト特集

“Love”を探す3つの物語——jellyy、新作シングル『Look For Love』

ラッパー・jellyyが放つ新作『Look For Love』は、
タイトル通り“愛”をめぐる3曲を収録したシングル作品だ。
収録曲は「Drank Night」「あの人じゃあなたにはなれない」、
そしてLisa lil vinciを客演に迎えた「Someone」の全3曲。

「全部“Love”っていうテーマでつながってるんですよ。
酔った夜の気持ちも、恋の痛みも、誰かと繋がる瞬間も——ぜんぶ“Love”だなって。」
そう語るjellyyの言葉の通り、作品全体には“愛”という軸が一貫して流れている。

夜の酔いの中で揺れる心情、過去の恋への痛み、そして新しい関係を築こうとする瞬間。
異なるストーリーが緩やかに響き合い、一枚の作品としてまとまっている。

jellyy

愛を“シングル”に刻む——恋と孤独、その間で生まれた言葉たち

リリースを経て、jellyyにとって「愛」というテーマの捉え方は大きく変わったという。
制作当時は恋人の存在や精神的な揺らぎがあり、その心情を曲に強く投影していた。
特に2曲目「あの人じゃあなたにはなれない」について、本人はこう語る。

「誰にも置き換えられない存在っていると思うんです。この曲を出したことで、聴いた人も“自分にとって変わる存在はいない”と自信を持てたらいいなと思ったし、僕自身も考えを言葉にすることで整理できました」

また、ラブソングを作るうえで「好きな人がいないと書けない」
というリアルな制約も感じているという。
だからこそ、当時の恋愛感情が生々しく閉じ込められたシングルは、
彼にとっても大きな意味を持つ記録になった。

「生きるのが辛い人に届けたいっていう気持ちが一番でした。
僕が誰かを愛しているって意味の“Love”でもあるけど、同時に“みんなに伝えたいLove”でもあるんです」

結果として「Look For Love」は、jellyy自身の弱さや孤独、
そして愛をめぐる多面的な感情をリスナーと共有するための作品となった。

制作の舞台裏——即興と試行錯誤が生んだ3曲

「Look For Love」の3曲は、ただ並べられたわけではなく、
しっかりと意図された順番で配置されている。
「最初と最後の曲はすぐ決めました。『Drank Night』はアッパーなテンションで、
“楽しもうぜ”っていう空気を作りたかった。
逆に『Someone』はしんみりする曲だから、絶対ラストに置きたかったんです」
とjellyyは振り返る。

結果として、軽快で勢いのある「Drank Night」が幕を開け、
ラブソングとしてリスナーの背中を押す「あの人じゃあなたにはなれない」が真ん中を支える。
そして、Lisa lil vinciを迎えた「Someone」で、
切なくも王道の失恋ソングとして物語を締めくくる構成となった。

『Look For Love』のジャケット

「『Drank Night』と『あの人じゃあなたにはなれない』は同じ日に作ったんですよ。どっちも1時間くらいで一気にできた。
パンチインでフリースタイル感覚で録ったので、自然に流れが出たんです」
と、制作スピードの速さを笑いながら語る場面も印象的だ。

一方で、「Someone」は完成までに時間を要した。
「リリック自体はすぐ書けたけど、納得いくフローを見つけるのに苦労しました。3時間くらい格闘してましたね」
と明かす。だが、その試行錯誤が、シングルを象徴するクライマックスに繋がった。

「それぞれの曲の“役割”を意識した結果、3曲全体がひとつの物語みたいになった」とjellyy。
作品全体のテーマ“Love”が、曲順とバランスを通じて鮮やかに浮かび上がっている。

夜を彩るリリック——「Drank Night」に込めた酩酊のリアリティ

シングルの幕開けを飾る「Drank Night」は、タイトル通り夜と酒をテーマにした一曲。
ただのパーティーソングではなく、そこに漂う孤独や葛藤が丁寧に刻まれている。

『俺の人生はずっととかかってるリーチ』
『もう19 けど呼ばれる “Jellyy Baby”』

このラインについてjellyyは、
「YNW Mellyが “Melly Baby” というアドリブと同じで、自分も“Baby”ってつくアドリブをしたかった」と説明する。
19歳という大人と子供の狭間にいながら、まだ“Baby”と呼ばれる自分。
そこには「若さ」と「重さ」の両方を背負う今の姿が凝縮されている。

「俺の人生はリーチかかってるくらい切羽詰まってるけど、それでもまだBabyなんだって見られてる。そういうアンバランスさを逆に武器にしたかったんです」
とも語る。

サウンド面はプロデューサー Vxid(ヴォイド) が手がけ、重く沈むベースと浮遊感のあるメロディが、リリックの「切実さとユーモア」の二面性を包み込む。
「夜の虚しさも楽しさも同時に描きたかった」と話す彼の言葉通り、
ラフな夜の風景に内面の本音が滲む仕上がりとなっている。

jellyy

日本語タイトルに込めたリアリティ——「あの人じゃあなたにはなれない」

シングルの2曲目「あの人じゃあなたにはなれない」は、
Autumn!「You>Them (hate it!)」をリファレンスにしたビートの上で展開される一曲。

特筆すべきは、シングルの中でこの曲だけが日本語タイトルになっていることだ。
「ストレートに伝えたかったんすよね。曖昧な言い回しじゃなくて、
感情をそのままぶつけたタイトルにしたかった。」
とjellyyは語る。英語のタイトルでは出せない生々しさを、日本語にすることで強調している。

リリックの中心にあるのは、どうしても埋まらない他者との距離感。
「あの人じゃあなたにはなれない」という一節は、恋愛の痛みだけでなく、
自己と他者を比べ続ける葛藤そのものを映し出す。
そこに彼の等身大の弱さと、シンガーとしての誠実さがにじむ。

結果的に、この曲は「Look For Love」の中で最も直球で、最も人肌を感じる楽曲となった。

傷つけ合いをやめて、ただ抱きしめて——「Someone (feat. Lisa lil vinci)」

「Someone」は、フックの〈I just need someone who holds me〉を軸に、
「抱きしめてくれる人だけでいい/傷つけてくる人はいらない」
という極めてストレートな願いを置いた一曲だ。
過去に痛い経験をしてきたからこそ、
jellyyは真正面から“まっすぐ愛してほしい”という切実さを歌い上げる。

「英語詞って、なんとなくカッコよく響くけど、意味がぼやけて伝わりがちなんすよ。
でもここは絶対に外したくなかった。だから敢えて直球で言ったんすよね。」

対するLisa lil vinciのバースは、恋愛のディテールを具体的に描き、
曲全体の情景を濃くする“続きの語り”として機能している。
「俺が感情の叫びを出して、リザくんがその裏にあるストーリーを描く。
二人の声が重なった瞬間、助けを求める叫びと依存の危うさが一気にリアルになるんです。」

この曲は“誰かを探す”というより、
“いま隣にいる大切な人と、ただ穏やかな毎日を過ごしたい”という祈りに近い。
「重くてドロドロした恋の部分も隠さずに書いたけど、最後は“それでも好きだ”で終わらせたかった。そこに俺のラブソングの書き方が出てると思うんすよ。」

等身大の弱さと祈りを封じ込めた「Someone」は、
jellyyにとってラブソングの“自分らしさ”を決定づける一曲となった。

jellyy

弱さを強さに変えて——“ギャップ”が生んだ新しい自分

「Look For Love」の制作を振り返り、jellyyは「意外な一面を見せられた」と語る。
これまでの彼には〈Fxck〉や尖った言葉を連発する、アップテンポなイメージが強くあった。
しかし今回の3曲では、繊細な感情を正面から刻み込むことで、
“バチバチのラッパー”だけではない自分を提示できたという。

「今までは“どんな人なんかわからん”って思われてたかもしれないけど、
この作品でちょっと理解してもらえた気がするんですよね」と笑うjellyy。
その言葉の背景には、激しい曲ばかりをやっていては“これしかできない”
と思われてしまうのでは、という葛藤もあった。
「俺はちゃんと他のこともできるって証明したかった」と語るその姿勢は、
作品全体に漂う振り幅の広さにつながっている。

さらに彼は、感情の弱ささえも強みに変えようとする。
「自分が弱くても、それを歌詞にしたら一曲になる。それが強さやと思う」と断言するのだ。
弱さを隠さず音楽に昇華する姿勢こそ、今のjellyyの武器になっている。

そして、リスナーに向けた想いはシンプルだ。
「尖った曲で盛り上げることもできるし、ラブソングで寄り添うこともできる。ちょっとでも元気にさせたいし、“俺も減らるから大丈夫”って伝えたい」
ジャケットの肋骨と赤いハートが象徴するように、
弱さと愛情を抱えながらも前を向く彼の姿勢が、このシングル全体を貫いている。

――愛と弱さを武器に、jellyyは次のフェーズへ踏み出そうとしている。

jellyy(ジェリー)
大阪府出身、2006年生まれ。
2023年10月にシングル「wait for you」でデビュー。2025年リリースのアルバム『Most Hated』では、Myghty TommyやLisa lil vinciら同世代の気鋭を客演に迎え、ストレートな言葉と鋭いビートでシーンに強烈な存在感を刻んだ。

代表曲「TOGARI」で見せた苛烈な表現スタイルは、“TOGARI”という言葉そのものを彼の代名詞に変えたが、その一方で、jellyyの表現は愛や繊細な感情に踏み込むことで大きく広がりを見せている。

新作シングル『Look For Love』では、「Drank Night」「あの人じゃあなたにはなれない」「Someone (feat. Lisa lil vinci)」を通して“Love”という共通テーマを多面的に描写。鋭さと柔らかさの二面性を武器に、弱さを隠さず音楽へ昇華する姿勢は、次世代を象徴するアーティスト像を浮かび上がらせている。

“ラブソングも、バチバチなラップも、自分らしさで響かせたい。”
その想いを胸に、jellyyは新たなフェーズへと歩みを進めている。

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