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Madaler kid インタビュー 鹿児島から横浜へ——“鏡”で自身を映す軌跡

BIGAKU

名前について——呼び方は「マダラ」、由来はNBA 2Kの“成り上がり”

読みはMadaler kid(マダラーキッド)。
2001年生まれ、24歳。呼び方は「マダラ」が本意だ。
「今の呼び方は“まだらーきっと”で、まわりからは“マダラキ”“マッキー”“マダラー”って呼ばれる」と前置きしつつ、可愛く縮められるニュアンスには「ガキっぽくなるのは好きじゃない」と苦笑い。
「一番なんて呼んでほしい?——“マダラ”です」。
伸ばし棒は不要、平仮名で“まだら”。

名の履歴は“単体期”から始まる。「もともと“Madaler”だけでやってた」。
のちにkidを足した理由は、ゲームの中の成り上がりを現実に踏襲するためだ。
きっかけはNBAのゲーム『2K』。お気に入りはJason Kidd。
「“Madaler kid”という名前でプレイして、特権が増えたり、最後はアメリカの一番でかいリーグで優勝する」——その物語の推進力を自分の芸名にも宿した。

“Madaler”で始まり、“kid”で走り出す。呼び名は短く、意思は長く——Madaler kidは、ゲームで掴んだ上がり方を現実に上書きするためのタグだ。

Madaler kid

地元——鹿児島で育ち、横浜で勝負する理由

生まれも育ちも鹿児島。「地元は鹿児島生まれ鹿児島育ちっすね」。
今は横浜に来て4年——「当時好きなアーティストが神奈川に多かった」からだという。
LEXSANTAWORLDVIEWBAD HOP(川崎)、JP THE WAVY……「神奈川やばいな、そこで勝負したい」と決めて移住した。

鹿児島は“飯がうまい”。
推しは「鳥刺し」——国に認められた調理法で新鮮な叩きが食べられる、と胸を張る。
STACK THE PINK が遊びに来たときも“激ハマり”、冷凍を買って帰ったほどだという。

「何もなさそうで、ちゃんとある」のも地元の魅力。
天文館のアーケードにはサイファーやスケーターが集まり、
風俗やギャンブルの大人の娯楽も混在する——“大人も子どもも集まる”街の交差点で、いろんなことを覚えてきた。

音楽的にはローカル色が強く、外の景色も吸収してみたかった——
だから一度、外の景色を見に出た。拠点は横浜に置きつつ、より先端のものを吸収して、日本、そして海外まで視界に入れる——その前提で選んだ居場所だ。

ラップを始めたきっかけ——“バスケ少年”がアメリカのBGMでスイッチ入り、高2の冬に初制作

「小学校から高校卒業前までずっとバスケしてたんです」と本人。
高1の1か月のアメリカ留学でNBAの試合を観戦し、ダウンタウンの熱に触れたハーフタイム——ヒップホップがBGMで鳴っていた。
「その時はゲスの極み乙女。やセカオワ、大原櫻子を聴いてたけど、“これかっけー”ってなって」。
帰国後、日本のHIPHOPを調べて『唾寄』や『高ラ』に出会い、地元の友達とサイファーを始める。
バトルは観る専だったが、「自分の曲を作りたい」が前に出て、本格的な制作は高2の冬から。

「バスケ絡みからの始まりなんですね」「マジでそうですね」。
ゲームで聴こえた曲が家でもこだまし、やがてMadaler kidという名の物語と接続していく。

Madaler kid

キャリア——横浜で火がつき、SoundCloudで拡張、EP『DEAD STAR』を経て“ソロ期”へ

最初の転機は横浜。上京の次の月にはライブが決まり、「それがなかったらスタート切れてないと思う」と振り返る。
地方出身の若手としてオーガナイザーに紹介され、来て2か月目から現場に立ったのが始まりだった。
ローカルでは“熱い曲”でプチバズを経験し(現在は削除)、上京1年後に出した「DuO!!!」(Lo-Key Boy参加のリミックス)が最初の“天気”になった。

次のフェーズはSoundCloud期。当時のシーンの波(Xgang/ASTRO/STARKIDS などが勢いを見せた時期)を見て、「ここで跳ねたらいい」と判断し投下を加速。
NAGATOMIとのタッグで「Katy Perry」をリリースすると、各所から反応が集まりファンが増加、以降の曲も連鎖的に伸びた。
その波に乗りながら県外ブッキングも増え、活動圏は横に広がっていく。

成長期には、コラボの厚みが増す。2023年、XameleonXANHezronと組んだEP『DEAD STAR』を発表し、手応えを確かなものにした。

そして現在はソロ期。
「人とやるのもいいけど、自分のレベルを上げたい」。
自分のやりたいことと世間の求めるもののズレに向き合い、「“Madaler kid の音楽そのもの”で納得させたい」という動機でソロ多めへ。
以前よく触れていたハイパーポップ的で明るい雰囲気は「若い子が好きな感じ」と理解しつつ、性格や価値観に合う土俵へとスタイルを切り替えた。
いまは「本来やりたかった音楽」で更新中だ。

『DEAD STAR』ジャケット

——“現場で点火 → サンクラで拡張 → 共同制作で加速 → ソロで輪郭を濃く”。
Madaler kid のキャリアは、転調を重ねるたびに推進力を増している。

Madaler kid

ラップスタアについて——“通らなくてもいい”と自覚、コンテンツ自体は好きなわけではない

スタンスは明確だ。エントリー動画を見渡して「大丈夫かこれ、みたいなレベルのやつもいる」と違和感はある。
そのうえで、「別にラップスタア通らなくてもいいなって思えた」と、企画に依存しない自分へ舵を切った。

ただし結論は“否定”ではない。
コンテンツも応募者も、自分自身も応募している身として否定したいわけじゃない。
むしろ——通った人も、それを見る人も、“大人の事情”が絡む選出である可能性を前提に置いておいたほうがいい、という話だ。
そうすれば一、二年後にフェードアウトする例が多い現実も見据えられるし、通過を自己評価のすべてにして“自分はスターだ”と錯覚しなくて済む。
本当に残るのは、選ばれたとしても見せびらかさず、謙虚な姿勢で積み上げ続けるやつ——その基準で、今は距離を取っている。

Madaler kid

おすすめの楽曲——“DAWN*”で灯す自己対話/“Banksy!!! (feat. Hezron)”で怒りをアートに

まずは最新シングルの「DAWN*」。
本人いわく「最近出した“ダウン”」「自分にしっくりきてるジャンル」で、Futuristic Glo/Rageの方向へ舵を切る布石になった一曲だ。
「自分と向き合って書いたリリック」で、「周りとか世間に対して俺が話したい言葉」を詰め込む。
核にあるのは、“他人はお前らが思ってるほどお前らに興味ない”という冷静さ——
その上で「それでも自分のやりたいことを貫けるか」と自問する、夜明け前の独白だ。
「自分にも言いたかったし、みんなにも言いたかった」というまっすぐな動機は、「自己啓発本みたいな聞かれ方が合ってる」という自己分析にもつながる。
大きな主語=“世間”へ手紙を書くように、リスナーを前へ押し出す設計だ。
制作面では、プロデューサーBAP3!!のビートに即反応。
「当時いろんなプロデューサーから自分に合うビートが届いてた」中で、BAP3!!のトラックに“スラスラ書けた”ことで「すぐ作って、すぐ出した」。
素性を知らずとも耳で確信して選び取ったスピード感も、この曲の推進力になっている。
「海外のタイプビート検索で出てきそうなクオリティ」という手応えも添える。
ジャケットはSig。アー写からのアレンジが巧みで、「暗いけど明るい」質感を一晩で形にした“仕事の速さ”にも信頼を置く。

DAWN*のジャケット

対になるのが「Banksy!!! (feat. Hezron)」。Madaler kid=“怒りの塊”という自己定義をもっとも純度高く投げ込んだ曲だ。
「世間への不満、自分の弱さへの苛立ち」を、“怒りをアートに”の姿勢でビートに刻む。
客演はHezron。「激しいRageに合うのはヘズロンだ」と即座に連絡し、熱が冷めないうちに合流させた。
プロデューサーはjune。LEX「Busy, Busy, Busy」やMIKADO「B@NDANA」でも知られる手腕で、タフなRageの土台を組み上げる。
ビートが差し替えになっても“打ち直し”で乗り切る制作過程が、そのまま曲の強度へ。
アートワークはGAWN-LANDに依頼し、“正解が一目で決まらない”3Dビジュアルでテーマを増幅させた。

——「DAWN*」は、自分と“世間”に向けた夜明けの宣誓。
「Banksy!!!」は、苛立ちと疑問を作品へ転化する炎。
この二曲で、Madaler kid の“今のフォーム”がはっきり見える。

Madaler kid

音楽制作——宅録セットと“自分の耳”で仕上げる

制作は徹底して宅録。
インターフェースは「DTMセットで調べたら出てくる」定番のFocusrite、マイクは高域の拾いが気に入っているという“Blue”。

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DAWはスマホ時代から馴染んだGarageBandに、ボーカル向けプラグイン「Nectar 3」を挿してミックス/マスタリングまで自分で完結させる。


「最初から遊びでミックスしてて、“自分の声を自分のミックス”が一番しっくり来た。
他の人に頼んだこともあるけど、耳の話だから伝わりきらないことも多くて」と本人。
依頼もたまに受けており「俺のミックスで良ければね」と笑う。
機材感は“必要十分”。目安はMacが約20万円、マイク4万5千円、DTMセット3〜5万円で「総額30万あればやれる」。
プラグインはセール(例:ブラックフライデー)での導入を勧める、というリアルな勘定感覚だ。

よく聴く音楽——夜空を引き寄せる“Distance”

「ずっと聴いてる曲」で挙げたのは、KM「Distance」。高校卒業から上京までの時間をずっと支えてきた一曲だという。
「東京の空でも田舎の夜でも、これを聴くと一気にエモくなる。いつ聴いても全部思い出せる感じがして、超好き」と語るその温度は、日常の風景を丸ごと引き寄せる“再生ボタン”の効き目そのもの。
一方で「今聴いてる曲は?」と問えば迷いながらも、その日の気分で巡回するUS/JPの新譜もあると匂わせる。「まじ今日、ずっとLEX聴いてた」との一言からも、耳は常に現在進行形だ。

一方、“今キテる”楽曲として挙げたのがLil Tecca「Boys Don’t Cry」。
「メジャーで行けば…リルテッカで『ボーイズ・ドン・ト・クライ』」と名指しで紹介し、最近出たアルバムの一曲だと補足している。
そこから「これめっちゃ…やりてぇ」と熱が上がり、自作「DAWN*」へも“今のムードが来てる”流れで接続された。

—というわけで、常備薬=KM「Distance」/現在進行形の刺激=Lil Tecca「Boys Don’t Cry」という二本柱で耳を温めてる、がいまの実感。

Madaler kidたち

美学——「自分の鏡は一つだけ」。堂々と好き/嫌いを選び、筋を曲げない

「普段の一日を過ごすとき、目の前に“鏡”があると思ったほうがいい」。
一人の時間にその鏡をのぞき込み、「今の行動は正しかったのか/今、自分は何をすべきか」を点検する——それがまず出発点だという。
鏡に映る自分を直視できれば、「私って堕落してんな」と気づく瞬間も含めて、次の一歩を自分で選べる。

一方で、人と接しているときに“目の前の鏡”は置かない。
「人前で無理して笑う/みんなに合わせてしまう」——その場の空気に流されれば、自分の感性は薄まっていく。「日本は“右へならえ”が多い。
友達がいいと言ったから好きになる、って広まり方でいいのか」。
だからこそ、“自分の鏡”を持ち続ける。「お前の友達はお前の鏡じゃない/自分の鏡は一個だけ」——判断の軸を他人に預けない、という誓いだ。

結論はシンプルに強い。誰の前でも胸を張れるように、好きは好き、嫌いは嫌いと言える自分であれ。親や世間を“鏡”にして進路を曲げるのではなく、「自分の鏡で自分を見て、今何がしたいのかを選べ」。
そして最後に置く合言葉——「筋、曲げないで生きてほしい」。
美学とは、毎日その鏡を持ち歩き、流されずに立つことだ。

横からのヤジも、後ろからの追い風も、鏡の前ではただの風。
筋を曲げずに、いま選んだ音で押し切る。
——今日も鏡をポケットに。次の一曲で、君の景色を少しだけ変えにいく。

Madaler kid(マダラーキッド)
鹿児島出身、2001年生まれ。NBA 2Kの“成り上がり”を名に刻むラッパー。

高2の冬に制作を開始。バスケ少年としての米留学でHIPHOPの熱に触れ、横浜を拠点に“自分と世間”を往復する視点で言葉を研ぐ。
「Banksy!!! (feat. Hezron)」で“怒り”をアートに昇華。Xameleonらと組んだEP『DEAD STAR』、シングル「DAWN*」でFuturistic Glo/Rageの方向性を提示し、現在地を更新し続けている。

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